とねりの庭

下々ノ者ノ下ノ庭

笠と地蔵

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むかしむかあるところに、貧しいが心優しい老夫婦がいた。

明日は正月だというのに餅を買う金もないふたりは、笠を5つ作りそれを町で売ることにした。

町に出た爺は、大きな商店の軒先を借りて即席の笠屋を始めた。
しかしこの大晦日に笠を求める客などおらず、結局ひとつも売れないまま冬の早い夕暮れを迎えることとなった。

爺は、来た時と変わらない荷をまとめ、軒先を貸してくれた店主に、お礼の言葉と年末の挨拶をした。
爺の様子を不憫に思った店主は、売れなかった5つの笠全てを仕入れとして買い取ることを申し出た。
店主の言い値は、仕入れというには多少多めであり、爺もこれには心からの感謝をもって応じた。
爺は丁寧に礼を述べ、町を後にした。
ひとつ、ふたつと、雪が降りだした。

とっぷりと日も落ち、すっかり白くなった家路を歩きながら爺はしみじみと思った。
この大晦日に良い人に出会えてよかった。よい一年の締めくくりになった。しかも立派な餅まである。おかげさま、おかげさま。
爺は帰路の辻沿いに居並ぶ地蔵たちに手を合わせ、今日の出来事の報告をした。
年の瀬らしくしっかりと冷えた夜だったが、妻の喜ぶ顔を想像し、心の中からあたたかくなった爺であった。

ニソップ物語12
「笠と地蔵」
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元の話のあのオチは、お礼なのか、お情けなのか。
販売目的だったものの売れ残りを地蔵はどう思ったのか。
端から地蔵への寄進であったなら、地蔵はどう振舞ったのか。
起こるはずだった奇跡を、知らないままに死んでゆく爺は、本当に幸せといえるのだろうか。
そんなことをこの話を書きながら考えてしまったが、考えてみたところでなににもならないのだった。

作成者: にそ丸

■東京から一番時間距離のあるまち、岩手県宮古市のとある庭から見える田舎の風景を。

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