とねりの庭

下々ノ者ノ下ノ庭


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とある幼稚園児の取材にて。

この日の取材対象は、ひとりの幼稚園児童。
園側には予め許可をもらっており、ランチタイム中の教室におじゃまして、30分ほどでおいとまする段取りだった。

記者と二人で指定された時刻に幼稚園へ。
玄関とくぐると、60歳前後と見られる上品な女性理事長が直々に出迎えて下さり、非常に恐縮した話口調と物腰で、もう10分ほど待って欲しいことを丁寧に説明された。
お願いし、おじゃまさせて頂くのはこちらであり、なにより待つのはたったの10分。こちらのほうが恐縮してしまう。

通されたのは、誰もいない職員室。
他の先生方は、みな忙しいとのことで、理事長自らお茶を入れようとしていたが、あと数分のことであるし、どうぞお気遣いなく本当に本当にお構いなくと言ったのだが、もしかしたら理事長本人が手持ち無沙汰というか、時間を持て余してのことだったのかもしれない。

ウエッジウッド風の高級そうなソーサー付きのティーカップを2つ並べ、ひとつにティーバッグを落とし、ポットからお湯を注ぐ理事長。
紅茶ではない香りが鼻先をかすめたので、
「ジャスミンティですか。いい香りですね」
特に意味を持たない空気のような感想を述べた。
理事長は、ええとかはいとか、やはりそんなに意味を持たない返答をしながらも、たおやかなる指の所作で揺らしたティーバッグを、もうひとつのカップに移し、湯を注ぐ。
もうじき春だとかなんとか、そのような大人の会話をしながら、カップの中でゆらゆらと振られたティーバッグは、やがて流しの三角コーナーに捨てられた。

記者の前に出されたカップと、私の前に置かれたカップ。
やはり洒落たデザイン。しかしそれにしても違いすぎる茶の濃さよ。
記者のはきれいな黄金色であるのに対し、私のはササッととった上品すぎる出汁色。
ひとつのティーバッグでふたつ淹れたのだから当然である。
しかし、百戦錬磨の私は、眉ひとつ動かさず、恐れいりますいただきますと自然な笑顔でありがたくいただくのである。
なんといっても、こちらはおじゃました側。お茶を出していただけることは当然ではないのだ。

心地よいジャスミンティの香り。
もはや、このカップから香っているのか、隣に座っている記者のカップから漂ってきているのかは分からない。

しかし、ひとこと「美味しいです」と言えなかったのは、まだまだ修行が足りなかったせいであろう。
そして、このようにネタにしてしまうというのも、また良くないことだとも思う。
きっと、理事長ともなれば、お茶を入れることなどないのだろう。
職員は皆忙しいのだから、がんばって普段はやらないことを、我々のためにやってくれたのだ。
それでもやっぱり面白い。
こういうオモシロシチュエーションに出くわすのは、私の良い星のなせる業。
これからもお待ちしております。
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ああ、春だ春だ、もうすぐ春だ。