とねりの庭

下々ノ者ノ下ノ庭

とある幼稚園児の取材にて。

18件のコメント

この日の取材対象は、ひとりの幼稚園児童。
園側には予め許可をもらっており、ランチタイム中の教室におじゃまして、30分ほどでおいとまする段取りだった。

記者と二人で指定された時刻に幼稚園へ。
玄関とくぐると、60歳前後と見られる上品な女性理事長が直々に出迎えて下さり、非常に恐縮した話口調と物腰で、もう10分ほど待って欲しいことを丁寧に説明された。
お願いし、おじゃまさせて頂くのはこちらであり、なにより待つのはたったの10分。こちらのほうが恐縮してしまう。

通されたのは、誰もいない職員室。
他の先生方は、みな忙しいとのことで、理事長自らお茶を入れようとしていたが、あと数分のことであるし、どうぞお気遣いなく本当に本当にお構いなくと言ったのだが、もしかしたら理事長本人が手持ち無沙汰というか、時間を持て余してのことだったのかもしれない。

ウエッジウッド風の高級そうなソーサー付きのティーカップを2つ並べ、ひとつにティーバッグを落とし、ポットからお湯を注ぐ理事長。
紅茶ではない香りが鼻先をかすめたので、
「ジャスミンティですか。いい香りですね」
特に意味を持たない空気のような感想を述べた。
理事長は、ええとかはいとか、やはりそんなに意味を持たない返答をしながらも、たおやかなる指の所作で揺らしたティーバッグを、もうひとつのカップに移し、湯を注ぐ。
もうじき春だとかなんとか、そのような大人の会話をしながら、カップの中でゆらゆらと振られたティーバッグは、やがて流しの三角コーナーに捨てられた。

記者の前に出されたカップと、私の前に置かれたカップ。
やはり洒落たデザイン。しかしそれにしても違いすぎる茶の濃さよ。
記者のはきれいな黄金色であるのに対し、私のはササッととった上品すぎる出汁色。
ひとつのティーバッグでふたつ淹れたのだから当然である。
しかし、百戦錬磨の私は、眉ひとつ動かさず、恐れいりますいただきますと自然な笑顔でありがたくいただくのである。
なんといっても、こちらはおじゃました側。お茶を出していただけることは当然ではないのだ。

心地よいジャスミンティの香り。
もはや、このカップから香っているのか、隣に座っている記者のカップから漂ってきているのかは分からない。

しかし、ひとこと「美味しいです」と言えなかったのは、まだまだ修行が足りなかったせいであろう。
そして、このようにネタにしてしまうというのも、また良くないことだとも思う。
きっと、理事長ともなれば、お茶を入れることなどないのだろう。
職員は皆忙しいのだから、がんばって普段はやらないことを、我々のためにやってくれたのだ。
それでもやっぱり面白い。
こういうオモシロシチュエーションに出くわすのは、私の良い星のなせる業。
これからもお待ちしております。
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ああ、春だ春だ、もうすぐ春だ。

作成者: にそ丸

■東京から一番時間距離のあるまち、岩手県宮古市のとある庭から見える田舎の風景を。

とある幼稚園児の取材にて。」への18件のフィードバック

  1. 先月、ドレスデンという町のカフェで飲んだココア(いえ、ココアという同じ名前の別の飲み物に違いない)、
    トラウマになるくらいに、すごかったです。(そういう店に限って、一等地にあって店構えが良かったりする)
    チョコレート色だったけれど、一滴もココアの味がしない、しかも牛乳も水で薄まっているような、
    すっごい不思議な飲み物でした。混ぜれば味がするのかな?と思い、かすかな希望を抱きグルグルグルグルー。でも、味は同じ。

    「これ、ココアじゃないだろ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
    と叫び、テーブルをバン!と叩き、飲み逃げと思われたくないので、取り敢えず金をおいて、
    さっさと店を出てきました。

    というのは、私の頭の中の出来事。本当にココアがまずかったのは本当だけれど、小心者の私は何も言えず、
    ココアを飲み干せず、お金を払い、お店を後にしました。

    • うへぇ。私の場合とは違って、さっちゃんのは「客」としてのことじゃん!
      ザ観光地ラーメンの美味くなさよりヒドいすね。店のニュアンスではそれなりのお値段っぽいし。
      そりゃぁ叫びながらテーブル叩いて、金だけ置いて店を出て当然! かっこいいぜ!!! と思ったら、そういうことね(笑)。
      morinagaのココアでも飲んで出直しやがれ! ってなもんです。

  2. うーむ…面白い。

  3. 顔色を変えずにお茶を飲むとは、さすがの対応ですね~

    • 恐縮です。
      常に平常心でいるようにと鍛えてくれた先輩方のおかげです。
      がしかし、こんなにも自分で言ってるようじゃまだまだまだまだですけどね。

  4. こんにちは(*^_^*)
    僅か10分の間に楽しいストーリーの劇が出来たようです。
    ジャスミンの素敵な香りだけでも良かったですね。

    • 気遣い心遣いは、掛け値なしに嬉しくてありがたかったです。
      ジャスミンティーは好きなので、ペットボトルのものを買うこともありますが、それよりも香りは楽しめました☆

  5. タイトルが「とある保育園児の〜」とあり、本文には幼稚園児童となっていたのでこれはどんな謎解きなのかと読み進めておりましたが…主役は理事長だったとは!
    二重のやられた感。
    さすがのnisomaruさまです。

  6. 胃に負担の少ないよう、薄澄になされたのではと推察いたしました・・・(ウソウソ)

  7. にそ丸さんの色んな想いを古いタイプライターでカチャカチャと打ち出して、吹き出しにして頭の上に貼り付けたくなりました。
    読んでいて妙な緊迫感を感じましたよ(笑)

    • きっとその時の私の頭上には「?」や「!」のほか、いろんな言葉が浮かんでたでしょうね。
      あの一連を、コマ撮りアニメみたいに、静止画+吹き出しで作品化したのを観てみたいわ。

  8. どんな小説が展開するのかと思いました。面白かったです。

  9. その昔、日東紅茶のティーバック?ティーパック?ティーバッグ??あれを二番茶はもちろん、二番茶を二個で三番茶を入れてた時代がありました。
    あのローズヒップティーのような淡い色合いの飲み物は確かに紅茶だと思って飲んでおりましたが、一回使ったら捨てるという贅沢を経験した時、私もいよいよ大人になったなぁ~と自覚したものです。

    話は変わりますが、新婚旅行でアメリカの大雑把な食事に辟易していたところ、ラスベガスの空港で見つけたうどんスープなるものを食した時、器の中の得体のしれない野菜やパスタかと思える麺に湧き出る頭の中の???を押しのけて、ほのかに香る醤油の匂いにうっとりと、あ~日本人に生まれて良かったと決して美味くないうどんらしきものを美味いと思った、これぞ脳内革命!!?

    • あるあるあるあるです、ティーバッグの二番煎じ。
      そんなもん、家庭なら日常茶飯事あるあるですよ、一回で捨てちゃうセレブ感も。
      だっては、ちゃんと味も香りも大丈夫だもん。そりゃ当たり前にやるっつの。
      でもでも、客にはやらないってのも、また理解してるのが我々で、万一ティーバッグが一個しかない!となれば、うまーく同じ濃さにふたつ淹れようとするじゃんね。

      それを飛び越えた所作たるや、なかなかのもんでございますよ。
      アンド醤油香の件。
      「とりあえず醤油」こりゃ日本人の誇りですがな。
      塩ではない「一味足りない」は、すべて醤油で解決できますからね。

      由緒正しき日本人の感覚として誇るべきことです!と同意と応援を。

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